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生物の生存戦略
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<動物の形作り戦略〜背と腹はどのようにして決まるのか?〜>


                                基礎生物学研究所 上野直人
                                記事執筆 池松明希(東京大学立花ゼミ生)


ヒトの体には「背」と「腹」があり、それぞれ異なった構造をしている。
節足動物はヒトで背にある神経が腹側にあるものの、それでもやはり「背側」と「腹側」を持つことにかわりはない。


では背と腹は一体どのようにして決定されるのだろうか?


1935年にノーベル生理学・医学賞を受賞したハンス・シュペーマンの行った実験として有名なものに、イモリのドナー胚の原口背唇部をホスト胚に移植したというものがある。
結果、ホスト胚では神経板が重複し完全な二次胚が形成された。
つまり、原口背唇部には分化を引き起こす作用があることが判明したわけである。
原口背唇部は形成体(オーガナイザー)と名づけられ、未分化の細胞群に分化を促す形成体の働きは誘導と呼ばれた。

以上の実験で二つ目の神経板が誘導されてくることからも、原口背唇部は背腹決定に重要な役割を果たしていると考えられていたが、その詳しいメカニズムは不明であった。


背腹はどのように決まるのか?オーガナイザーとはいったい何者なのか?
上野先生はこれについて研究なされてきた。


背腹決定にかかわる重要な物質として、BMPとactivinもしくはnodalが挙げられる。
BMPは骨形成タンパク質であり、activinとnodalはよく似た細胞増殖因子である。
正常な胚においては、BMPは腹側で、activin/nodalは背側で作用している。
activin/nodalについて言えば原口背唇部においていくつかの重要な遺伝子を活性化することによって胚を背側化することがわかっている。
胚にBMPのmRNAを注入しBMPタンパク質を余分に作らせるとその部位は腹側化する。
また本来腹側となる胚の部分のBMPシグナルを遮断すると背側化する。
これらの実験から、BMPは腹側化因子であり、activin/nodalは背側化因子であることが明らかになった。
つまり、オーガナイザーの本体はactivin/nodalによって活性化されるオーガナイザー因子(Noggin、Chordin、Follistatin)であり、それらの働きはBMPに結合してその活性を阻害することにあったのである。

腹側では、腹側化因子であるBMPが発現することに伴い背側化因子であるactivin/nodalの活性が阻害され、背側では、背側化因子であるactivin/nodalが発現しオーガナイザー因子の働きによってBMPの働きが抑制される、というようにして「腹側」と「背側」が決定されているのである。

シュペーマンの実験以来、原口背唇部は積極的に神経などの背側構造をつくるという重大な働きをしているに違いない、と多くの人が考えていたようである。
しかし実際はそうではなく、あくまでも原口背唇部に存在するオーガナイザー因子は腹側化因子であるBMPの作用を抑制するという負の制御こそが重要であったのだ。


今回の講演では、シュペーマンによってオーガナイザーの存在が明らかにされた時代から連綿と続いてきた研究の成果を、その流れの最先端に位置する上野先生にお話いただく。


【用語解説】
  • 原口背唇部
    • 原腸胚期の原口周辺部位のうち、背側に近い方の部分。
      シュペーマンの行った実験によって、胚の他の部位に働きかけて分化を引き起こす作用が発見され、形成体と呼ばれるようになった。
  • 神経板
    • 主に脊索動物の発生初期に、外胚葉の背側に生じる肥厚。やがて左右両側が隆起し、合わさって神経管を形成する。
  • mRNA
    • DNAからタンパク質が合成される時に、DNAの持つ遺伝情報をタンパク質合成の場であるリボソームに伝達するリボ核酸のこと。DNAの塩基配列を鋳型として相補的に合成される。
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