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生物の生存戦略
われわれ地球生物ファミリーは いかにして ここに かくあるのか



<ゲノム進化が生み出した動物と植物のちがい>


                                基礎生物学研究所 長谷部光泰
                                記事執筆 皆川秀洋(東京大学立花ゼミ生)


ここに生物学においては有名なセオドシアス・ドブザンスキーの言葉がある。’’Nothing in biology makes sense except in the light of evolution’’ 生物学においては進化という概念なしには満足な研究成果を求めることはできないという意味だ。「進化とは何か」この問いに対する答えを出すために世界中の科学者が莫大な資金によって日夜研究を進めている。

evolutionの和訳である「進化」という言葉は、生物が古来から続けてきた変化はすべて進歩的であるという肯定的な印象を与えているが、実際はそうではない。evolutionの意味は「変わる」ということで必ずしも前進的な変化だけを意味するものではなく後退的な変化も意味する。進化は成功だけではなく失敗も含むというこの概念は生物学だけでなく様々な学問に影響を与えた。様々な科学研究やそれにまつわる議論はこの概念が確立される前と後ですっかり様変わりしてしまった。それほどこの概念が持つ意味は大きかったといえる。

進化は何によって引き起こされるか。それは遺伝子の複製の不完全性によってである。遺伝子が遺伝情報の書き写しの際に必ずわずかなミスをする。このミスが以前とは全く違った種が出現してくる根本の原因なのである。このミスがなければ人類はおろか、この地球上には植物さえ存在せず大腸菌やウイルスなどの原核生物しか存在しなかったであろう。そしてこのミスは生物の何らかの意図的な作業ではなく不可避的な自然なのだ。

遺伝子のレベル、つまりこれ以上の子細さはないというレベルで進化のしくみへのアプローチが始まったのはごく最近のことだ。これは、ダーウィンの自然選択と自然災害などの偶然性だけによる従来の進化論に大きな変革をもたらすかもしれない。現在の段階では分子細胞研究に費やされる時間と資金の膨大さ、またなにより遺伝子が互いに及ぼしあう影響の複雑さのために従来の進化論に大変革を与えるには至っていない。しかし遺伝子がピラミッド型の階層性、つまり官僚制のような配置をとっていることから、その頂点に立つ遺伝子を「親玉遺伝子」と名付け親玉遺伝子が変わることによって大きな進化(大進化)が引き起こされるというしくみが発見されたことは分子レベルでの研究の成果だ。

進化とはなにかを探るうえで動物、植物とそして大腸菌などの原核生物それぞれの個別的な研究はもちろん、それらが進化して分かれる前の原始的な生物を研究することで動植物や原核生物の間の共通性を探り出そうとする試みが20世紀での生物学において盛んになされてきた。しかし21世紀のこれからの生物学はもっと進化の樹形図における先端のごく個別的なものに焦点を当て進化とは何かに迫るであろうと予想されている。実際、研究の流れは現在その方向に傾いている。

進化とは何かに対する生物学の道のりは遠い。何しろまだオトシブミが誰にも教わらずになぜあの特異的な行動を起こすかということや、オジギソウが現在の姿にいたるまでの進化の各段階がどのようなものであったかも全くわかっていない。

今回の講演では、様々な角度から焦点を当ててアプローチを試みる最先端の研究を数多く紹介しながら、一見途方もない問いである進化とは何かに対して現在における最高の答えを明示する。


【用語解説】
  • ダーウィンの自然選択説
    • 進化を説明するうえでの根幹をなす理論。厳しい自然環境が、生物に無目的に起きる変異(突然変異)を選別し、進化に方向性を与えるという説。1859年にチャールズ・ダーウィンとアルフレッド・ウォレスによってはじめて体系化された。
  • オトシブミ
    • オトシブミは一般にオトシブミ科の昆虫の総称、または、チョッキリを除くオトシブミ科の昆虫の総称。産卵の時に広葉樹の葉で卵を包む習性があることで有名である。葉を切る、噛み傷を付ける、折り目をつける、そして葉を巻くことでシェルター状のものをつくりそのなかに産卵する。シェルターが壊れないのはオトシブミが「折り紙」のように見事な葉の折り方をするから。名前は江戸時代に他人にばれないように手紙を道端に落とし、他人に渡したという「落とし文」から来ている。(写真などはWebサイト「オトシブミの世界」に詳しい)
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